映画一本で、ずいぶん引っ張る、と
言われそうだが
今日は、映画の感想を書きたいと思う
原作者の佐藤愛子センセイは
「エッセイなんて映画にならない」とのたまったそうだが
いやいや、私は相当に楽しむことができた
映画料金は、割引を使ったので千円
ポップコーンやジュースは、もともと買わずに
映画を集中して楽しむ派なので
支出はまさに、この料金だけ
同額でかき氷を1杯食べるなら
絶対に、この映画の方がおすすめだ
こちらの方が、笑って泣いて、じんわり気持ちが暖かくなり
余韻も楽しめる
ただ、もともとがエッセイなので
天地がひっくり返るような、大きな出来事は何も起きない
その人にとっては重大でも
世間的には、ささやかな出来事が
暖かい視線で、丁寧に描かれる
映画の冒頭では
佐藤愛子は、作家というよりは
他だの、愚痴っぽくてわがままで
少しばかり、世をすねたような
扱いにくい老女として登場する
やることがないから、テレビを見ていて
娘に、何かすれば、と言われる
これは少し前に見ていた、NHKのドラマ
「老害の人」を思わせるような感じだ
ところが
断筆宣言をしていた佐藤愛子のところに
編集者が訪ねてくる
この編集者が、唐沢寿明なのだが
言われなくては分からないくらい
しょぼくれた中年になっていた
この編集者は、悪い意味での昔かたぎで
部下の女子社員を仕事の後で酒に誘い
パワハラだと人事にいいつけられ
お情けのような部署にいる
家でも、上から目線で説教ばかり
家族とは会話も成り立っておらず
妻子は離婚届を残して姿を消してしまう
それが、妙な成り行きから
断筆宣言中の佐藤愛子に連載を依頼し
担当編集として、もう一度書かせようと
手土産のおやつ持参で、日参する……、と
このあたりまでは、予告編に出ている通りだ
この二人の、書く、書かないのやりあいが
大変に面白い
上手な役者さんが、真剣にやるコメディというのは
本当にほんわかとしていて、楽しく、面白い
書かない、書かないと言っていた佐藤愛子が
最後に執筆依頼を受けるシーン
ここは、何ともカッコよく、それでいて、ニヤリとさせられる
なかなかの名場面だったが
細かいところのネタバレはさけておく
この二人は、本当にいい「バディ」で
見ていて、気持ちがいい
年の離れた女性と、若い男性の「バディ」ものといえば
コミック「大家さんと僕」だろうが
あれと比べると、こちらの方がヤンチャで
パワフルで、元気である
だが
お互いがお互いを、知らないうちに支えあっているという
根本のところでは、良く似ていると思った
最初、書かないと言っていた佐藤愛子は
すっかり老け込んで
年よりの言うことなんて、誰も聞かないだろう、と言っていた
半分、鬱のような状態から見事に抜け出し
「怒りの愛子」と呼ばれていた
以前の様子を取り戻していく
断筆宣言をといた直後
書こうとしても、何を書いていいのかわからない、と
薦めなくなっていた佐藤愛子と
一緒に朝のウォーキングをし
書くヒントを見つけるのも、この編集者だ
逆に
家族に出ていかれ、どう生きて行っていいのかわからず
苦しむ編集者に
いい年よりなんてつまらない、
うんと面白い爺さんになればいい、と励まし
新しい生活への背中を押すのが、佐藤愛子だ
共依存にならない、自立した大人同士の
一見、そうは見えないが
優しい心の交流のおかげで
見終わった後、こちらの心まで、どこかぽかぽかしてくる
エッセイの内容は
佐藤愛子が編集者に渡した原稿、という形で
映画の中に登場する
子供の声の話
そして、犬の話
細かいネタバレは止めておくが
犬の話では、私はネコ派だというのに
恥ずかしながら、泣いた
……映画館の良いところは、何と言っても暗いことだ
目をぬぐっていても、見られずに済む……
ラストのテロップも、また良い
実際の佐藤愛子センセイが100歳になって
今なお元気、という内容だが
テロップが出たとき、私のいた映画館では
小さくどよめきが起きた
あと、俳優陣も見事だった
ほとんど出ずっぱりの、草笛光子サン
これが、草笛光子サンの個性を持ちながら
佐藤愛子センセイにそっくりなのだ
顔立ちだけではなく、品の良さや、知性、きっぷのよさ、パワフルさなど
どこをどうとっても、佐藤愛子センセイだった
チョイ役出ていた、三谷幸喜も、上手だった
佐藤愛子を載せる、タクシーの運転手約
話に夢中になって、時々ハンドルから手を放して
後部座席を振り向いたりする
なかなかにトボケタ役なのだが
実に、映画の雰囲気に良く会っていたと思う
かなり上手だったことも、申し添えておきたい
DVDになったら
是非、ツタヤあたりに借りに行って
もう一度見たい映画だった
私の評価としては、星五個が満点で
星四個、というところだ