今日、勤め帰りにちょっと寄った書店で
文庫本が二冊、平積みになっていた
表紙を見て、驚いた
「大家さんと僕」と、その続編
「大家さんと僕 これから」
早速、レジカウンターに二冊とも持っていき
いつ文庫化されたのか、と聞いたら
もう二ヵ月近く前で
夏の読書キャンペーンの対象商品、とのこと
確かに、夏になってからは
ファイナンシャルプランナーの試験で頭がいっぱいで
その系統の本しか、見ていなかった気がする
いやはや、うかつだった
というのも、私はこの作品の大ファンなのだ
これは、いわゆる「エッセイ・コミック」で
日常のいろいろな出来事をマンガ化したもの
あまり、売れていない芸人の
「僕」こと「矢部」さんと
下宿先の大家さんの
心の交流を描いた作品で
手塚治虫賞の受賞作でもある
だが、このような外面的な話よりも
実に見事なのは
この、60歳以上の年齢差を超えた
二人の友情
……というよりも
間違いなく、当人二人は
「絶対に違います」というだろうが
私には、性的なものを一切なくした
純度の高い、恋愛に見えるのだが……
まだ、20代(と思われる)売れない芸人の「僕」が
新しく入居することになった家は
元二世帯住宅だったのが
住んでいたお兄さんが亡くなったので
人に貸したい、という物件
「大家さん」は86歳の老婦人だが
「ごきげんよう」とあいさつするような
上品な人の反面
タクシーで伊勢丹まで行って
1本千円のたらこを買うような
「ヤンチャ」で愛らしいところもある
実に魅力的な人物だ
エピソードは、どれも、くすりとわらえて
なおかつ、どこかにペーソスの漂う
しみじみと、あたたかい話が多いのだが
私が一番好きなのは
大家さんが、「僕」の誕生日を祝ってくれる話
ショッピングカーの修理を口実に
「僕」を家に招いた大家さんが
修理中に、急に部屋の電気を消したかと思うと
「ハッピーバースデー トゥー ユー」と
歌いながら、手にお皿を持って現れる
「僕」の誕生日のケーキは
なんと、大きなおはぎで
その真ん中に、お仏壇用のロウソクが1本立っている
しかも、大家さんは
今日はまだ、誕生日ではないのは知っているけれど
若い方は、盛大なパーティーをするから
あえて前倒しで祝った、という
ところが
誕生日当日、家の前の道で「僕」は時間をつぶす羽目になり
最後のコマには
来年の誕生日は、当日でいいです、と書かれている
作品は、週刊新潮で連載されていたが
その途中で、大家さんが他界された
その時の、新聞広告は、今でもよく覚えている
私個人がお目にかかったことは
当然ながら、一度も無い方ではあるが
オマケに、私は筋金入りの無神論者ではあるが
自然に、手を合わせた
私の誕生日は九月
そろそろ八月も終わり近くなり
なんとなく、ソワソワしてくる
今年のケーキは何にしよう、と考え
やはり、手製の豆腐ガトーショコラにするか
それか、この際、大盤振る舞いで
ダロワイヨあたりのホールケーキを買い込むか、
そう迷っていたのだが
これを読んで
私も、大家さんのおはぎのケーキが
無性にうらやましくなった
なので、今年は、手製のおはぎで
誕生日を祝うことになるかもしれない
それに、もう一つ
この作品の好きなところは
大家さんは、実は86歳で一人暮らしをしている
バツイチで、子供もいないようだ
つまり、俗にいう「独居老人」なのである
だが、一般社会がもつ「独居老人」の
うらぶれたイメージなどは
この「大家さん」にはかけらもない
暖かく、ユーモラスで、友達に恵まれ
金銭的にも、そこそこのゆとりはあり
なにより、心豊かに暮らしている
私は定年後には、週に三日くらいは働きたいので
その先、完全に仕事からリタイアしてから
ということになるのだが
その時には、生き方のロールモデルとして
「大家さん」のように生きてみたい、と
思っている
鉛筆書きの、シンプルな線で描かれた
ほのぼのとした絵も
話にぴったりで
おそらくは、令和を代表するコミック作品の
一つと言ってもよいと思う
是非、ご一読を