毎年、一番最初に書店で買う本は
その年開催予定の美術展をまとめたムック
芸術手帳あたりの本格的なものも読みごたえがあるが
私が買うのは、たいてい千円前後の
「ぴあ」あたりが出しているものだ
何を隠そう、私は心臓に障害があり
障碍者手帳をもらっている
なので、国立の美術館や博物館はタダ
私立のところは、場所によっていろいろだが
百円引きから、半値まで
多少の割引はしてもらえる
障害のおかげで
いろいろと、しなくて良い苦労はしてはいるものの
その分だけ
「きれいなものをたくさん見て
人生を豊かに暮らしなさい」と
お国が言ってくれているような気がして
遠慮なく、使わせていただいている
しかも、通勤定期も効くので
多少遠いところでも、足代もあまりかからないという
俗にいう「いいとこ尽くし」なのだ
今年、必ず見に行こうと思い
年明けすぐからチェックを入れているのが
タイトルの
「異端の鬼才 ビアズリー展」だ
この画家は、子供のころから好きだった
というよりも、高校生の頃
初めて読んだ、オスカー・ワイルドのサロメに
頭をフライパンでぶん殴られたような衝撃を受け
……というのも
私が通っていたのは、キリスト教のミッションスクールで
聖書に関しては、毎週一回の
授業があり、成績の評価にもつながっていた
なので、聖書に出てくる
ユダヤの王女サロメと、サロメのせいで
死ぬことになった、洗者ヨハネの物語は
耳にタコができるほど
よく知っていたからだ……
聖書の物語は、さほど興味を惹かれるものではなかった
ローマの使節をもてなしていた
いわば、田舎大名のような、ヘロデは
使節の退屈そうな空気を読んで
自分の義理の娘、サロメに
接待のためにダンスを披露するように言う
サロメの踊りが上手だったので
ヘロデは、褒美をやろう、何が良いかと聞くと
サロメは、自分の母親にところに相談に行き
母親は、自分とヘロデの結婚を非難した
洗者ヨハネの首をもらえ、という
サロメは、母親に従ったので
あわれ、洗者ヨハネは殺されてしまった
これが、聖書のあらすじだ
これだけを読むと、どこがおもしろいのか
まったくわからないうえに
サロメはただの
自我も自己主張もできない
母親の言うなりのぼんくら娘だ
ところが
オスカー・ワイルドという耽美主義のイギリス人作家は
これを、王女サロメの抑圧された境遇
……義父のヘロデは、サロメに情欲を向けており
サロメ自身も、それを知って
ひどく嫌悪している……
そして、自分と同じく、地下牢に閉じ込められ
抑圧されている洗者ヨハネに
共感と恋情を感じるが
手ひどくふられるだけではなく
母親と同じく穢れた女だと軽蔑される
その、かなわぬ思いを実現するために
踊りの褒美として、自分の意志でヨハネの首を求める
作品の最後では、サロメはヨハネの生首に口づけ
ぞっとした義父、ヘロデの命で殺される
まだ異性と付き合ったことすらない
高校一年生に、この作品はあまりにもハードだった
というよりも
こんな世界があるのか、と
とにかく、ショックでショックでたまらなかった
私がこれを読んだのは
岩波文庫だったのだが
その挿絵として、入っていたのが
ビアズリーの版画だった
版画の人物増は
どれもある程度のデフォルメとデザイン化をされており
リアルなスプラッタではないが
おそらくは、スプラッタよりも
ずっと見事に、作品の凄惨さと美しさの両立を
ビジュアル化していた
学校の図書館で
ルノワールや、マリー・ローランサンの画集を見ていた
私にしてみれば
まさに、世界が変わるほどの衝撃だった
私の趣味が、ちょっとばかり浮世離れしており
同僚に言わせると
「現実と夢の成分が7対3くらいの人」になってしまったのは
内心、この
岩波文庫のサロメがきっかけだったのではないかと
疑っているくらいだ
……とはいえ
そもそも、最初から
少しばかり、「そのけがあった」ことは
否定はしないが……
そのビアズリーの大回顧展だそうだ
作品は、サロメだけではなく
初期の名作、アーサー王物語からも含めて
220点が来日
イギリスの、ビクトリア・アンド・アルバート美術館の
全面協力だそうだ
これが、一昨日からスタートしている
たいてい、美術展というのは
最初の二週間と最後の二週間は、非常に混雑するので
それを外して
今月の末か、来月のはじめあたりに
行こうと思っている
さすがに、高校生の頃のような
感受性はなくなっていると思うので
さほどショックは受けないだろうが
こころゆくまで展覧会を楽しむために
当日は、半日休暇をもらっておこうと思っている
もっと言えば
三菱一号館美術館は
マジックアワーチケットというものがあり
毎月、第四水曜日の五時以降なら
入場料が割引になるのだが
混雑するのが、難点でもある
さらにいうなら
ここのカフェは、実に素晴らしく
昔は、銀行の貴賓室か何かだったのを改装して
作られているそうだ
しかも
展覧回とコラボしたメニューが
必ずあるのがうれしい
ビアズリー展では
黒と白の版画を使った
ビアズリーにちなんで
「異端のティラミス」1300円也
これは、ビアズリーファンとして
食べなくてはなるまい
場所は、地下鉄の二重橋駅が最寄だが
東京駅からも、歩こうと思えば
歩いて行けると思う
マジックアワーで、安く行くか
ティラミスをあきらめて、少しでもすいた時間に
ゆっくりと見て回るか
ここは、考えどころかもしれない
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