陽気が暖かくなり
なんとなく、昼休みに外出がしたくなり
勤め先のビルから徒歩3分ほどの
キッチンカーの集合場所に出かけてみた
普段は弁当派なのと
この時期は、花粉症がきついことも手伝って
本当にたまたま、新しいキッチンカーが
出ていないかな、と、冷やかし半分にみてまわっていたところ
異動前に同じ部署だった、元同僚と
ばったりと出会った
キッチンカーのハワイ風料理
「ロコモコ弁当」のファンなのだという
私も今日の昼食はそれにして
早咲きの河津桜の下で、一緒に弁当を広げていたら
定年後、何か楽しそうなことはないかしら、と独り言のように
つぶやいた
これは、と、ちょっと緊張した
この人も、今月末で定年になる
そして、あまり自分の心の中を人に言わない人だ
だから
この人が、独り言のようにつぶやくことは
決して、独り言だと思ってはいけない
むしろ、普通のひとなら、一杯おごるから相談にのつてよ、と
コンビニコーヒー片手にやってくる人と同レベルか
あるいは、ずっと深刻な事態と思った方がいい
(私への「一杯」はコンビニコーヒーに一杯と
相場が決まっているらしいのだが、それはさておき)
ご夫婦で40年、部署は変われど同じ職場に勤めていて
波風が立った、という話も聞かない
最初は、ご夫婦で楽しめる何かが良いか、と思ったのだが
もしそのつもりなら、相談は夫婦でしているだろう
他人である私に話を持ってくる、ということは
趣味を口実に、一人になれる時間が欲しいのかもしれない
と、なると
この人の好みにあっていて
1人になれる時間を確保できる趣味
相手が一緒に来ようとしても、一緒に来られない事情があり
波風を立てずに一人になれる趣味、がいいかもしれない
読書や手芸では、家を空けて一人になることはできないし、と
迷った末に
ここは、ソバ―キュリアスの意地
飲酒の時間を情報収集に費やしてきて
ムダな情報が、おもちゃ箱のように頭の中に詰まっている
必死で検索して
これぞ、というものを見つけ出した
念のため、かなり唐突ではあるが
猫、お好きですよね、と確認してみた
すると
そうですけど、どうして、とかなりビックリされた
話はとても単純だ
この人の目立たない私物には、猫モチーフのものが
とても多い
休憩用のティーバックを入れている缶は
カルディが猫の日限定で売り出している猫イラストだし
ボールペンはクリップの先に、小さな猫の足の裏がついている
この頃は、大河ドラマのラインスタンプを使っているが
愛用しているのは、主人公の紫式部でも、藤原道長でもなく
猫の「こまろ」だ
だが、家庭で猫を飼っている、と聞いたことはない
何かご事情でも、と尋ねたら
本人以外の家族が全員ネコアレルギー、とのことだった
ネコをとおりこして、動物の毛一般が全部ダメだそうだ
これで、話がつながった
この人は、自分はネコが大好きなのに
家族がアレルギーで、飼うことができない
でも、ネコ好きを大っぴらに出すと
家族の気持ちの負担になるかもしれないから
1人でそっと、猫グッズを愛用することで
心の隙間を埋めていた、というところだろう
いじらしい、というか、けなげ、というか
こうなれば、おすすめするのはほぼ一択
保護猫カフェでのボランティアだ
ここなら、一人になれるうえに
思いっきり、猫と触れ合うこともできる
というよりも、猫と触れ合うことが仕事だ
保護猫、というのは、早く言うと野良ネコだ
だが、野良猫の生活は過酷で
子猫の時は、カラスに狙われることもある
えさを取ることができず、やせ細っていったり
ネコ白血病、猫エイズのような伝染病にかかることも多い
何より、東京では自動車事故が非常に多く
天寿を全うできる猫はほどんどいない
こうした猫たちを路上生活からレスキューして
病気を治し、トイレのしつけをし、人なれさせたうえで
譲渡会をひらいて、猫を飼いたい人との縁をつなぐのが
「保護猫活動」
東京では、千代田区が区をあげてバックアップしているが
それだけでは資金は不十分なので
ほとんどの保護猫活動グループが
猫グッズの販売や、猫カフェ、猫祭りなどの
イベントで、資金を集めているところが多い
ただ、保護猫活動団体にも、いろいろとある
さすがに、政治や宗教と絡む団体はないのだが
ネコの保護に夢中になりすぎるあまり
少し極端に走っている団体も、無いとはいえない
なので
ボランティア登録の前に、自分に合うかどうか
自分の目で確かめてくださいよ、
と前置きして
いくつかある、知り合いの団体の中から
一番、この人のご自宅に近く、常識的で、穏やかで、雰囲気が良く
日本最大手と思われる団体を紹介した
この団体は、大阪に、保護猫活動用ビルを1棟持っていて
そのビルで、猫カフェと、猫ホテルを営業していること
東京でも、数店ネコカフェを開いていること
ネコカフェのホールスタッフを兼ねて
保護猫のお世話係を募集していること
ボランティアで、報酬は出ないと思うが
老若男女を問わず、ネコ友達がたくさんできること
スタッフは毎日、丁寧に
ネコのお世話、というか
ネコとのスキンシップ、というか、猫可愛がり、というか
とにかく、店内に入れば、すっかり猫まみれ
ブラッシングからはじまり、ご飯をあげたり
ネコの運動係もかねて、猫じゃらしをしたり
爪の手入れをしてあげたり、譲渡会用のネコ写真を撮ったり……
そのあたりまで話したところで
保護猫団体への連絡先を聞かれた
絶対に連絡します、と
嬉しそうに何度もお礼を言われて
同じくらいの回数、頭を下げられた
そんなに、お礼を言われるとちょっと困ってしまう
というのも
実は、私はこの団体とはちょっとしたつながりがあるからだ
ここの「ネコ助け合い活動」に入っているのだ
私は一人暮らしなので、万一のことがあったときに
愛猫の行く末が、とても心配だ
特に、通勤の間に交通事故などにあって
家に帰れなくなったら、我が愛猫は
その日から食べるに事欠くことになる
そんなときの保険のようなものだ
このメンバーになると
この団体がカードを発行してくれる
「家に猫がいます
私に万一のことがあれば
この団体に電話してください
すぐに猫を保護しに行きます」
と書かれている
私はこれをいつも持ち歩いている
ちなみに、今も、財布の中だ
いつかまた、この人とばったりと会うだろう
今度は、この団体の猫カフェで、かもしれない
その時も、きっと今見せているような、キラキラした笑顔を
振りまいているだろうか
そうだといいな、と思うと
なんとなく、未来が楽しみになってきた
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